前回のコラムでは無理に歯を抜かずに矯正治療した場合に起こりえるリスク、トラブルについて書かせていただきました。本来歯がガタガタになったり、前に出てしまうのは、形態的機能的な理由があるはずなのに、そのまま全部の歯を並べようとしても無理があります。歯が並ぶ隙間が足りない、前歯を引っ込める隙間が無いなどの場合は、歯を抜く必要が出てきます。永久歯を抜いてしまうと当然歯の数が減ってしまいます。歯の数が減ってしまうことは、そのこと自体が問題ですし、歯の数がそろっていることに越したことはありません。当然のことながら、矯正歯科治療を専門に行う歯科医師もわざわざ健康な歯を抜きたいと思っているわけではありませんし、抜かずに治療できるならそうしたいと思っています。しかしながらそうもいかないので、やむを得ず抜歯して治療しているわけです。
ではなぜ矯正治療で歯を抜くことが許容されているかというと、歯のガタガタや出っ歯、受け口、開咬になっていると、いくら歯の数がそろっていても、実際に歯として正しく機能を果たしている部位はかなり少なくなっています。歯を抜歯して歯の数が減ってしまったとしても、残った歯を緊密に咬み合わせることにより、歯の数が減ってしまうデメリットよりすべての歯が機能するようになるメリットの方が上回ることになるため、抜歯して矯正治療することが認められているわけです。
しかし、必要もないのに歯を抜いて治療してしまうと、当然問題が起こりえます。今回は必要のない「歯を抜く矯正治療」を行った場合に起こりえるリスク、トラブルについて述べてみたいと思います。どのような問題が起こりえるかと言うと、
- ●口元が下がり過ぎた
- ●前歯が内側に入り過ぎた
- ●鼻下が長くなった
- ●奥歯がしっかり咬めなくなった
- ●咬み合わせが合わなくなった
- ●歯を抜いた隙間を閉じるのに予想以上に時間がかかった
- ●歯を抜いた部分の隙間が広がってきた
- ●歯と歯の間に隙間ができた(ブラックトライアングル)
- ●顎が疲れやすくなった
- ●いびきをかくようになった
- ●ほうれい線が深くなった
- ●バッカルコリドー(歯と口角との隙間)が大きくなった
- ●歯の根が短くなった
- ●歯が揺れるようになった
- ●歯の神経が死んでしまった
などの問題が起こる可能性があります。
抜歯して矯正治療を行い、前歯が下がり過ぎになってしまうと、いろいろな問題が出てくる場合があります。逆に言えば、抜歯することにより前歯が適正な位置で治療を終えることができれば、非常に理にかなった治療と言うことが言えます。歯を抜くにしても抜かないにしても、無理して治療すると、やはりどこかに歪みが生まれ、最終的には良い結果になりません。大事なのはバランスであり、無理のない治療を行うことが、結局はその患者さんに合った適切な治療ということになります。歯を抜くことが問題なのではなく、「抜く必要がないのに歯を抜いて治療した、抜く必要があったのに歯を抜かずに治療した」となることが問題なのです。
「歯を抜く必要があれば、抜いて治療する。歯を抜く必要が無ければ、抜かずに治療する。」
これが大切なのだと思います。
2025月02月02日
院長 大西 秀威