コロナウィルスの感染拡大は、いまだ先行きが見通せず、いつ収束に向かうのか予断を許さない状況が続いています。4/16に緊急事態宣言が全国に拡大され、大阪府は特定警戒都道府県に指定されました。当院では、患者様および当院スタッフの感染リスク低減のため、4/21~5/7まで休診することといたしました。患者様にはご迷惑ご不便をおかけすることになり、大変申し訳ありません。医療機関として苦渋の決断ではありましたが、今はコロナウィルスの蔓延阻止が最優先と考え、休診を決定いたしました。何卒ご理解いただきますようよろしくお願いいたします。
さて今回は、歯を長持ちさせるには、日頃のブラッシングだけではなく、歯並び咬み合わせも大切ですというお話です。高齢者の口腔保健の状態と全身の健康状態の関連性を調べた調査では、残っている歯の本数(現在歯数)は、物を咬む能力(咀嚼能力)に関連があり、ご高齢者の健康や日常生活の質(QOL)に影響を与えるとされています。厚生省および日本歯科医師会では「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という8020運動を提唱しています。8020達成者の割合は、運動開始当初の1989年調査では8%程度でしたが、2011年調査で40.2%、最新の2016年の歯科疾患実態調査では51.2%とついに過半数を超えました。着実にご高齢者の口腔保健状態が改善してきていることがわかります。
この8020を達成された方の歯並び咬み合わせの状態がどのようであったのかという調査が、東京の文京区(2000年度¹)と千葉市(1998~1999年度²)で行われています。その結果を見ると、残っている歯の種類では上下顎ともに犬歯の残存率が高く、特に下顎の犬歯は文京区で99.0%、千葉市では100.0%でした。両調査ともに前歯の残存率は高く、第一第二小臼歯の順で低下し、大臼歯は低くなっています。歯の喪失は下顎の奥歯(大臼歯)から始まると言われていますが、それが裏付けられています。奥歯は咬む力(咬合力)が最もかかる部位であるため、歯に負担がかかりやすいことと、奥にあるため目で確認がしずらく、ブラッシングが難しいため、虫歯や歯周病に罹りやすいのが原因と思われます。
前歯の前後的な位置関係と垂直的な位置関係を見ると、両調査でかなりばらつきがあります。ただ、共通しているのは受け口(反対咬合)、開咬の方の割合が全くの0%であったということです。日本人の受け口、開咬の方の割合は、それぞれ2~3%、2~6%程度と言われていますが、8020達成者はともに0%であったというのは驚くべきことです。前歯がしっかり咬み合わないことにより、咬合力をほぼ全て奥歯で負担することになり、奥歯に過剰な力がかかり過ぎて早期にダメになってしまうことや前歯を被せ物で治療して見た目には正しい咬み合わせにしていることが原因と考えられます。
歯並びのガタガタ(叢生)の状況を見ると、上顎の前歯に3mm以上の叢生のある方の割合が、文京区の調査で0%、千葉市の調査で4.9%と極端に少なくなっています。上顎の前歯は口を開けたときに露出しやすいため、下顎の前歯に比べ乾燥しやすい上に、周辺の歯茎に唾液腺の出口がないため、唾液の循環も起こりにくいため、歯にガタガタがあるとブラッシングが難しくなることと相まって、虫歯や歯周病に罹患するリスクが高くなり、歯を失ってしまう原因になると考えられます。
歯を長持ちさせるには、日頃のブラッシングと歯科医院でのチェックやクリーニングなど口腔ケアが大切とよく言われます。もちろん日頃の口腔ケアはとても大切ですが、歯並び咬み合わせが悪いと、歯を長持ちさせることが難しくなることをご理解いただけたかと思います。特に8020達成者に受け口、開咬の方が全くおられなかったという事実は、歯並び咬み合わせ等の口腔機能が、歯を長く保つことに密接に関連していることを物語っています。一旦奥歯がダメになってしまうと、残った歯により多くの咬合力がかかりまたダメになってしまいというように芋づる式に歯を失うことになりかねません。歯を健康に長持ちさせるには、日頃の口腔ケアだけではなく、歯並び咬み合わせを整え、仮に何らかの原因で歯を失った場合でも、インプラントなどで歯を補って全部の歯で咬合力を満遍なく負担できるようにすることが大切なのです。
1) 竹内史江, 宮崎晴代, 茂木悦子, 他: Dental Prescale®を用いた8020達成者の咬合調査, 歯科学報, 105(2): 154-162, 2005.
2) 宮崎晴代, 茂木悦子, 一色泰成, 他: 8020達成者の口腔内模型および頭部X線規格写真分析結果について, 日矯歯誌, 60(2): 118-125, 2001.
2020月04月27日
院長 大西 秀威