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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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歯並びと舌の関係

みなさん力を抜いて楽にしているときに、お口の中で舌の先はどこについていますか?
上の歯の裏側についている、下の歯の裏についている、または上下の歯の間についているという方もおられるかもしれません。
舌は安静時に上の前歯のすぐ裏側にある歯茎のふくらみ(切歯乳頭といいます)の後ろあたりについているのが正常です。これを舌のスポットポジションといい、舌の最も基本の位置になります。さらに舌全体が上顎の屋根部分(口蓋といいます)にピタッとくっついているとさらに完璧です。
しかし、矯正歯科を受診される患者様の中で、舌が理想的な位置についている方は意外と多くありません。舌の位置が歯並びや顎骨の成長発育に大きな影響を与えているからです。

舌の役割とはなんでしょうか?

1. 味覚を感じる
2. 唾液を分泌し、消化を助ける
3. 食物や水分の飲み込みを助ける
4. 発語・発音を助ける
5. 歯並びや顎骨の成長発育を助ける

があげられます。

舌の大きな役割は、味覚を感じる感覚器としての役割です。舌の表面には約10,000個の味蕾という受容器があり、味覚を感じています。味蕾は乳幼児期に最も多く、成長につれて徐々に減少していきます。免疫機能などが不完全な乳幼児では、味覚を敏感にすることにより異物をできる限り体内に取り込まないようにしているのだと考えられています。

また舌には唾液を分泌し、食物と唾液を混ぜ合わせ、消化を助ける消化器としての役割があります。舌の下にある口の底の部分(口腔前庭といいます)に舌下腺という大きな唾液腺があり、舌自体にも前舌腺、後舌腺、エブネル腺という小さな唾液腺があります。分泌された唾液中には様々な分解酵素が含まれており、食物の分解を助けるとともに、咀嚼した食物と唾液を混ぜ合わせ、最終的には舌を挙上させて嚥下することにより食物を飲み込みます。

音を直接発しているのは声帯という器官ですが、舌は歯や口唇と協調して動くことにより発音・発語を行う運動器としての役割もあります。これを構音機能といいます。日本語には存在しませんが、欧米では舌を上下の前歯の間に挟んで発音する「the」や「that」、下唇を上下の前歯の間に挟んで発音する「f」や「v」などの発音があります。日本人の中にも「サ」行や「タ」行の発音時に上下の前歯の間に舌を挟んで発音する方がおられますが、正しい発音の仕方ではありません。

大人に比べて乳児の舌は、お口の中で前方にあります。歯がまだ萌えていないので、母乳などを飲む際は舌を前に出して飲み込みやすいようにしています。これを幼児型嚥下といいます。また口蓋には吸啜窩と呼ばれる深い窪みがあり、乳首をくわえやすい形態をしています。
歯が萌えてくると舌の位置は後上方に移動するとともに、口蓋は徐々に平らになります。舌の先端は切歯乳頭の後ろあたりにつくようになり、安静時には舌全体は持ち上がり口蓋につくようになります。舌全体が口蓋につくことにより、上の歯並びを内側から押す力がかかり歯並びを広げるのを助けているのです。

この舌の移動がうまく行われず、舌が上下の歯の間に挟まったままになっていると歯の萌出が止まってしまい、開咬になってしまったり、舌が下の歯の裏側についていると下の歯並びを広げる力がかかってしまい、受け口になったり、ひどい場合には骨格性の反対咬合になってしまうこともあります(ただし、骨格性下顎前突などの顎変形症の原因がすべて舌の位置というわけではありません。あくまで原因の一つとお考えください)。
大人の方では成長が止まってしまっているのでもう無理ですが、幼児期の子供さんであれば舌の位置を改善するだけで咬み合わせや歯並びがよくなることもあります。

このように舌には様々な機能があり、歯並びや顎骨の成長にも影響を与えます。
当院では舌や口腔周囲筋の協調した正しい運動機能を覚えてもらうために口腔筋機能訓練(MFT)を行っています。お子様であれば不正咬合の原因を取り除き、健やかな歯並びや顎骨の成長発育を促し、大人の方であれば治療後の後戻りを少なくすることができます。

MFTを行わなくても矯正治療は可能ですが、治療後の後戻りの可能性は高くなってしまいます。MFTは時間がかかり、簡単にできるというものでもありませんが、MFTをするかしないかで治療結果や治療後に影響がでてきます。
舌の位置というのは歯並びにとっては非常に大切な要素なのです。

2012月02月06日

院長 大西 秀威