以前のコラムでよく咬むことによって、顎の大きさは大きくはならないが、歯並びの大きさが大きくなることをお話しました。歯並びが大きくなることにより、歯が並ぶ隙間が自然とでき、歯が綺麗に並びやすくなります。また咬むことが脳への刺激となり、脳が活性化します。しっかり咬むことで記憶力が活性化し、ボケ防止になる可能性があります。
矯正相談に来られる子供の患者さんを見ていると、上下の歯がしっかりと咬み合っていないため、食べ物をしっかりと咀嚼することができず、ほとんど咬まないまま飲み込んでしまうお子さんがおられます。ひどい患者さんだと、5回も咬まずに食べ物を飲み込んでしまうこともあります。ほとんど丸飲み状態ですので、食事の時間は非常に短く早いのですが、満腹中枢が刺激されないため多量に食事を取るようになり、体重過多になってしまう場合もあります。
子供の時期は、脳が様々な刺激を受けて発達し、より高度な知識や論理を理解、習得し、大人の脳へと成長していきます。ラットを使った実験では、固形食で飼育したラットと粉末食で飼育したラットを比較すると、固形食で飼育したラットの方が、迷路を抜けるのが早かったという報告もあります。よく咬むことにより、刺激が脳へ伝わり、脳への血流量が増加し、活動が活発になります。成長発育段階のお子さんでは、よく咬むことが歯並びだけではなく、脳の機能的な発育にとっても非常に重要であることがわかります。
ただ最近の食べ物は、あまり咬まなくても食べることができるのも事実です。よく咬んで食べましょうといっても、咬む回数を数えながら何回も咬んで食べるのはなかなか大変で、あまり楽しいものでもありません。ではどうしたらいいかというと、一番いいのはチューイングガムを咬むことです。ガムを毎日咬むことにより、食事の際の咬む回数を補うことができます。ただし、砂糖入りの甘いガムを毎日咬んでいると、糖分の取り過ぎになってしまいますので、ノンシュガーのガムがいいです。
矯正器具がついている場合はどうかというと、風船ガムのような歯にくっつくようなガムは、トラブルの原因になってしまいますのでダメですが、タブレットタイプのくっつきにくいガムでしたら問題ありません。というより、咬んでもらった方がいいです。咬む筋肉が鍛えられて、歯並びも大きくなり安定しやすくなります。また咬むことで唾液の分泌が促され、歯の清掃効果もありますので、矯正治療にとって何も悪いことはありません。チューイングガムで咬む習慣がつけば、食事も自然としっかりと咬むことができるようになります。お子様にはぜひ毎日ガムを咬むようにしていただきたいと思います。
野球選手が歯の治療をして、奥歯の治療をしてから成績がよくなったなどという話もあります。しっかり咬む(咬める)というのは、お口の中だけにとどまらず脳や全身の筋肉に大きな影響を与えます。成長発育段階にあるお子様には特に重要です。矯正治療でよく咬める咬み合わせにすることはもちろん大切ですが、親御さんにはそれとともによく咬むという習慣が身に着くようにお子さんに指導していただきたいと思います。
2015月03月16日
院長 大西 秀威